なぜ今五輪なのか?
2014/01/21 スポートピア
4年前に引き続き、選手団長として臨んだ20日の結団式。日の丸を前にしていよいよ身が引き締まる思いがした。2月7日から23日まで、ロシアのソチで開催される第22回冬季オリンピック開幕が目前である。
今大会からスキーのジャンプ女子、フィギュアスケートの団体戦、さらにバイアスロンの混合リレーなど12種目が加わり、全7競技98種目で金メダルが争われる。4年間の集大成をかけ、80以上もの国と地域から選手と役員合せて約5500名が集まってくる。
多くの日本人が「あの感動を再び」という期待を胸に、開幕を待ちわびているのではないか。そう思う理由の1つは2年前の夏、史上最多38個のメダルを獲得したロンドン五輪であり、もう1つは記憶に新しい昨年9月の2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催決定である。
「五輪」で国中が心を一つにして高揚し、情熱やポジティブな気持ちを共有した。あの推進力をソチの選手団で引き継ぎたい。団長として、日本オリンピック委員会(JOC)の選手強化本部長として、選手一人ひとりに最大限のパフォーマンスを発揮させるべく、細心大胆に取り組んでいきたいと思っている。ちなみに、JOC選手強化本部は「人間力なくして競技力向上なし」を今季の指針にしている。
昨年9月の招致決定以降、「なぜ今、オリンピックなのか?」と問われることが増えた。五輪は単に競技力を競うばかりでない。その理念は、スポーツを通じて人類社会が直面するグローバルな課題の解決に貢献しようとするものだ。「スポーツを国威発揚に利用している」と批判もあるのだろうが、スポーツの価値を認めるならば、「スポーツで何ができるか」を考えたいと私は思う。
少子高齢化が急速に進む日本は財政が危機的状態にある。生活が便利になりすぎて、子供たちの心と体を鍛えることも難しくなっている。国を立て直さなければいけない今、スポーツがその役割を自覚し、責任を果たすべきだ。 例えば、トップアスリートの育成のために蓄積された予防医学や科学的ノウハウを地域医療と連携させていけば、健康寿命も延びるし、現在38兆円を超える医療費の削減にもつながるだろう。
五輪は選手の人生にとって決してゴールではない。20年東京五輪も経済的効果をもたらす一面はあるが、それが目的ではない。アスリートが五輪を目指す過程で心身ともに磨かれ、周囲のサポートから人の絆を知るように、日本の社会もスポーツを通じて健康や心の豊かさを取り戻し、地域再生につなげることができる。ソチ五輪の17日間は、そんなスポーツの力を示す機会ともなるはずだ。
(日本スケート連盟会長)