平成24年06月19日 文教科学委員会
○橋本聖子君 自民党の橋本でございます。
四人の参考人の先生方におかれましては、大変貴重な御意見を賜りましてありがとうございました。賛成の立場あるいは反対の立場からいろいろな御指摘をいただいたことに、改めてこの法律の大切さというもの、そしてまた慎重にやっていかなければいけない部分も多々あるということも認識をさせていただきました。
少し観点を変えて質問をさせていただきたいなというふうに、四人の参考人の先生方の御意見を聞いて、質問をちょっと変えようというふうに思ったわけなんですけれども。
岸参考人から、今もお話出ましたけれども、音楽を代表例として、文化というのはいわゆる戦いで、競争力を持ってやっていかなければいけないという話もありましたけれども、その中で、一九九八年、六千億の売上げだったものが今大変半減をしているということで、そこには音楽業界も努力が必要であるんだという話がありましたけれども、今後どういった努力が必要なんでしょうか。世界的に競争力を付けるために、ということでしょうか。
○参考人(岸博幸君) 二つの点が必要だと思っておりまして、一つはやはり魅力ある作品を作ること。これは先ほども津田参考人も言っておりましたけれども、やっぱり作る音楽、当然これ、つまらなかったら、これは違法ダウンロード云々以前の問題として当然別のエンターテインメント、コンテンツに移っていくわけで、そういう意味じゃ、私は、この問題は音楽に限定しないで、放送業界も新聞業界も出版業界も、全てに該当すると思っていますけれども、やっぱり収益が悪化する中でどうしても制作の部門の力が弱くなっている、ここを変える必要がある。
もう一つは、やはり、じゃ、そのコンテンツを使ったビジネスの構想力、この部分がもっともっと、これはメディアの企業、コンテンツ企業、ネットビジネス、ネットベンチャー全てを含め、まだ足りないなと。
音楽を例に取りますと、もう諸外国では、いわゆるダウンロードと違って、定額聞き放題というストリーミングサービスが当たり前になっている。日本ではまだまだそういった世界の動きに対抗するぐらいのサービスができていない。これはビジネス面の構想力、ビジネス構築力にまだ足りない部分があると思っていますので、そういうコンテンツの制作面と流通面、両方においてやはりもっともっといろんな取組をしていかないと、なかなか、違法ダウンロードを罰則化という形で、違法ダウンロードコピー、違法コピーを防止するだけでは実は本当に文化が進化することにはならないかなというふうに思っています。
○橋本聖子君 ありがとうございます。
やはり文化力を上げていくということも必要ですけれども、当然この売上げを上げていかなければいけないということになると思うんですが、この法律が施行されていくことによってどのぐらいの売上げが確保できるようになるかという試算はありますでしょうか。
○参考人(岸博幸君) 私が承知している限りで、この違法ダウンロード罰則化でどれぐらい売上げが上がるかという試算は存在しないと思っております。
ただ、この部分に関しましては、個人的な意見を言わせていただきますと、やはりこの違法ダウンロードが罰則が付けられた場合に、当然ユーザーの側、今やネットが流通の一番のメーンの場所になっていますので、ネット上で正規のダウンロードの方を使う可能性は高い。今、これは音楽に限定しないであらゆるメディアコンテンツを通じまして、今まで売ってきたリアルのビジネスと比べまして、ネットの売上げは会社単位で見ましても非常に小さいです。ただ、それが今後どんどん伸びていくという推計はありますので、そういうのを考えますと、短期的な効果はそうすぐに出ないとは思いますけれども、中長期的には、さっき申し上げました制作力とかビジネス構築力の強化も組み合わせれば、それはまた成長できる可能性は十分にあると思っています。
○橋本聖子君 ありがとうございました。
続きまして、久保利参考人にお伺いしたいと思いますが、お話の中で、コンテンツ立国という話がありました。知恵づくり、あるいは芸術づくり、これもやはり同じように世界に向けて日本のこういった文化力を上げていくことが非常に必要であるということなんですけれども、具体的な立国構想というものをお聞かせいただきたいと思います。
○参考人(久保利英明君) 非常に鋭い指摘だと思うんですね。
例えば、僕は世界、今百五十か国を歩いているんです。百五十、国を歩いて、日本の放送をやっている国ってほとんどありません。それはほとんど、日本人がたくさんいるようなところしかやっていません。
ところが、どこへ行っても中国の放送はいっぱい出ているんですね。ありとあらゆるところ、中国人が一人もいないようなところへ行ってもあります。ということは、その放送を現地の人たちが見ることによって、中国ってすばらしいなと思えるような放送も含めて、劇であろうとニュースであろうと、あらゆる世界中で起きたことを、中国人の視点から分析したものを含めて放送されているんですね。多分スリーチャンネルか四チャンネルありますよね。日本の放送局、NHK一つ取ってみたって、ほとんどそういう放送は世界で行われているとは僕は言えないと思います。
ということは、コンテンツ立国をしていこうということは、これは当然、海外を対象にした輸出ということを考えなければ立国とは言えない。幾ら日本で日本人だけ相手にコンテンツを売ったところで、これは人間は減っていくんだし、それからどんどんおじいさん、おばあさんは増えていくんだし、そんなに世界中で売れるようなコンテンツがどんどんできるとは私には思えません。
そうなってくると、コンテンツ立国というのは海外進出をいかにやるか。そのときに、人間が全部出ていかなくても、インターネットという方法を使って放送もたくさんできますよね。あるいは本当に放送局を買収したっていいんですよ。そういうふうに動いていくためにはお金が要ります。
ところが、せっかくNHKが海外に行こうかと思ったときに、またぐじゃぐじゃになってしまって、今、大してコストを払ってやっていません。なぜなら、国民の視聴料で経営をしているんだから、これが本当に日本人のためになるのかという非常に小さな、近視眼的な日本のためというふうに考えている。だったら、ここへ別の予算を入れるとか、あるいは補助金を出すとか、いろんな形で、海外へ行くために特別のものを作っていいよ、制作費ももっとしっかりやりなさいと。「平清盛」ばっかり国内でやっていたって、これが果たしてインターナショナルな英雄として映るのかどうか。
こういうことを考えてみると、私はコンテンツ立国というのをやる上では、今まさに岸さんがおっしゃった、コンテンツそのものが魅力的であることと、それをどうやってビジネスとして海外に送っていくかというこのトランスポーテーションの問題、この二つにもっともっと工夫をしなければ、私はコンテンツ大国になんかなれないと思うし、そのためには人と金、これをそこへ投入するしかない。
そういう意味で、私は、コンテンツ立国になっていくためには、まず日本の、母国のマーケットがぐじゃぐじゃになっているときにそんなことをやれるだけの力があるはずないですから、それをまず基礎的なパワーを復活させるために、私は、刑事罰を入れてでも何とか日本の音楽産業ビジネスあるいは芸術産業ビジネスに力を与えたいと、こう思うんですね。
例えば、いい例ですけど、村上隆さんという人がいます。彼は本当に、映像、アニメ、あるいはフィーチャー、フィギュアですけれども、これを持ってアラブに行って、アラブの王女様がこれすばらしいといって、そこで大展覧会をしてくるわけですよね。あるいは、ベルサイユへ出ていって、あれをベルサイユ宮殿で大展覧会するわけですよね。そういうふうにやって世界へ羽ばたいていくような、そういうコンテンツを作って、そのコンテンツの売り方、見せ方、これも工夫するという一つの僕はモデルだと思っています。
そういうふうに日本のコンテンツに絡む、文化に絡む人たちが動くべきだというのが私の考えです。
○橋本聖子君 貴重な御意見、ありがとうございました。
津田参考人にお伺いします。 これは音楽、動画のみならず、今後はほかのゲームですとか、あるいは別な部分で同じように導入されていくんではないかという危険性、社会全体に及んでいくというお話の指摘がありまして、私も考えさせられる部分がたくさんあったなと思っております。
その中で、文化予算を要は上げればいいんだというお話がありました。お隣の韓国では文化予算が五千億である一方、日本は今、文化庁予算が一千億であり、韓国は日本の五倍ですね。実は、私はスポーツ界に長くいるわけですけれども、日本のスポーツ予算と韓国の予算を比べますと、もう十倍以上です、韓国の方が。そういう意味では、ここはいい視点を突いていただいているなと考えます。要するに、先ほどのコンテンツ立国、強い日本の文化づくりを世界に発信するという久保利参考人の御意見にも、当然こういった予算を上げていくことが必要なんだと思います。
もう時間が一分しかないものですから、本当に一言ずつになりますけれども、今のようなこと、世界に向かってどういう新しい日本独自の、独特の文化を発信していくべきなのかといったときに、文化庁のこの予算というのは幾らになればできるというふうに考えるか、最後に一言ずつお話しいただければ。
○参考人(津田大介君) やはり韓国の例ってすごく分かりやすいと思うんですよね。韓国は、大体日本が一番CDが売れていた一九九八年の段階で六千億ぐらいあったときに、韓国のCD市場って大体八百億ぐらいあったんですよね。ある意味でいうと、その国の規模とかと考えると、かなり国民のGDPとかそこまで比較しても相当な金額をやっぱり戦略的につぎ込んでいるというのは確かだとは思うので、その意味では本当に五千億がいいのか、それともそれ以上がいいのかというのは、幾らにすればいいというのは分からないんですが、それは非常に、大きくした方がいいことは間違いないだろうと。
あとは、本当に僕も、先ほどの久保利参考人のおっしゃっていたのはほとんどもう同様というか、同意見で同意なんですが、でも、その国際競争力を付けていくときの方法として刑事罰化というのが本当に有効なのかというところは疑問が残る。ただし、それに関してやはり向くべき方向性としては多分そうでなければいけないだろうというところと、ごめんなさい、ちょっとあと一点だけ言うと、あとはやはりプラットホームなんですよね。
例えば、アメリカであればやっぱりアマゾンそしてアップル、非常に強い、世界的に流通するプラットホームがあるんですけれども、じゃ、そこに日本のコンテンツ産業が十分にそういった普及しているグローバルマーケットにコンテンツを乗っけているかといったら乗っけていないわけですよね。それは契約の交渉の問題とかもあるんですが、やはり乗っけていない。そしてまた、そういうことをしないで日本だけの独自規格で、独自メーカーで、日本だけのメーカー、プレーヤーだけで、日本という市場だけを相手にしてやりがちなやっぱりこの日本メーカーの内向き志向みたいなのがあったときに、そこも変わっていかないと、やはり文化予算を増やすというだけではなくて、なかなかコンテンツ立国として外に行くのは難しいんじゃないかな。
僕も音楽の輸出とか実はジェトロと一緒に仕事とかしたことがあるので、その辺のボトルネックをいろいろ聞いていたので、何かその辺はかなり根が深い問題が、日本の内向き志向の根の深さというのは感じます。以上です。
○橋本聖子君 一言、久保利さんだけでいいです。
○参考人(久保利英明君) 一兆二千五百億円です。なぜならば、人口比、韓国は日本人の〇・四、四割しかいません。日本人は二・五倍いるんです。だから、五千億掛ける二・五です。
○橋本聖子君 ありがとうございました。